この業界の本質(結論):価値は川上の寡占工程(半導体製造装置・先端ファウンドリ・高シェア電子部品)に集中する、資本集約・高循環の装置産業。完成品(セット)・流通はコモディティ化し薄利。個社分析は「チェーン内の位置 × シェア × 資本効率(ROIC)× サイクル局面」の4点で見るのが要諦。
スコープ注:家電〜産業機器〜半導体〜製造装置と極めて広範で「平均像」は意味を持ちにくい。価値を規定する中核サブ領域(半導体/電子部品/製造装置)に焦点を当て、サブ領域ごとの差を明示する。
1収益構造(プロフィットプール)
「どの工程に利益が溜まるか」を可視化。誰が何をするか(バリューチェーン)より利益の所在を見る。
素材
薄〜中
製造装置
厚(寡占)
先端ファウンドリ/IDM
厚(寡占)
高シェア部品
厚
汎用部品
中〜薄
セット組立
薄
流通
薄
利益が厚い(寡占・高シェア)中位薄い(コモディティ)
※幅・濃淡は付加価値集中度の定性的イメージ。
裏付け:製造装置(WFE)はASML・Applied Materials・Lam・東京エレクトロン・KLAのBig5で約7割(2024年・約1,330億ドル)。先端ファウンドリはTSMCが約70%(2025年)。電子部品は村田がMLCCで世界シェア3割超。
企業分析での使い方:対象が「厚い帯」か「薄い帯」かで、達成可能なマージン・ROICの天井が構造的に決まる。同じ"電機"でも別物として扱う。
2勝者の条件(KSF)
① 規模(投資原資)巨額のcapex・R&Dを賄える売上規模。規模→技術→シェアの正のループ。
② 技術先行・歩留り微細化・材料・プロセスの一歩先。歩留りが原価とマージンを直接左右。
③ 設置ベース&サービス装置の保守・消耗品によるリカーリング収益と顧客ロックイン。
④ デザインイン顧客の設計初期に組み込まれる共同開発力。採用後は切替困難。
⑤ 寡占ポジション上位数社構造。シェアが価格決定力・調達力の源泉。
⑥ 知財・標準特許・独自材料・装置独占(例:EUV)。代替不能性が参入を阻む。
企業分析での使い方:KSFをいくつ・どの程度持つか採点。欠く企業は不況で真っ先に削られる「価格受容者」の可能性が高い。
3需要ドライバーと成長分解
| 分解軸 | 中身 |
| 構造成長 | AI・データセンター、EV/電動化、IoT、自動化 → 機器あたり搭載量(電子化率)の趨勢的上昇 |
| 循環 | 最終機器需要(スマホ・PC・車)+在庫循環+設備投資循環 |
| 数量 | 最終機器台数 × 1台あたり搭載量 |
| 価格 | 技術世代(先端は高単価)/需給(汎用は下落圧力) |
企業分析での使い方:売上予測は対象のエンドマーケット構成比(AI/車/スマホ/産業)から組む。構造成長エンドの比率が高いほど循環の谷が浅い。
4業界の経済性とサイクル
循環性リスク:高い固定費+高い資本集約 → オペレーティングレバレッジが極端。稼働率の数%変動が営業利益を大きく増減。利益の振幅が大きく「ピーク利益の持続性」を常に疑う。
| 論点 | 内容 |
| 資本集約 | ファウンドリのcapex/売上は30〜44%(例:TSMC 2023年 約44%)。先端fabは1拠点200億ドル超 |
| コスト構造 | 固定費(設備・R&D)比率が高く、稼働率が利益の最大ドライバー |
| サイクル指標 | シリコンサイクル。先行指標=book-to-bill、在庫日数、設備投資計画、半導体出荷額(WSTS) |
| 現局面(要確認) | AI・先端/HBMは逼迫、汎用は調整の二極化。四半期で変わるため毎回確認 |
企業分析での使い方:必ず「今サイクルのどこか」を判定。稼働率・在庫・book-to-billで足元利益がピークかボトムかを見極めてから収益力を評価。
5競争構造と価格決定力
| サブ領域 | 集約度 | 価格決定力 |
| 製造装置(Big5) | 寡占(CR5≒70%) | 強い |
| 先端ファウンドリ | 寡占(TSMC≒70%) | 強い |
| 高シェア電子部品 | 上位集中 | 中〜強 |
| 汎用部品・セット | 分散・競争的 | 弱い |
参考:MLCC世界首位の村田ですら価格競争で中期営業利益率目標を引下げ(2025年3月期 約16%)。寡占=無条件の高マージンではない。
企業分析での使い方:マージン持続性は属するサブ領域の集約度でほぼ決まる。価格転嫁力を過去の粗利率推移で検証。
6バリューマイグレーション/破壊要因
| ベクトル | 含意 |
| 川上への価値集中加速 | 微細化の物理限界×資本集約で勝者が少数に収斂。勝者総取り |
| 地政学・経済安保 | 対中輸出規制・補助金でサプライチェーン再編。中国売上比率がリスク/機会 |
| 内製化(垂直統合) | 巨大顧客の自社チップ設計が付加価値配分を変える |
| ライフサイクル位置 | 完成品・汎用=成熟〜衰退/AI・先端製造・パワー半導体・車載=成長 |
企業分析での使い方:「価値が集まる側(川上の勝者)」か「抜けていく側(コモディティ川下)」かを判定。後者は高い現在利益も持続性を割り引く。
7規制・政策(日本固有含む)
| 領域 | 個社への効き方 |
| 経済安全保障・輸出規制 | 先端装置・EUV等の対中規制。中国売上比率が感応度を決める |
| 各国の半導体補助金 | 産業政策(日本含む)。誘致の受益者か負担側か |
| 環境規制(RoHS等) | 材料・製造プロセスの制約とコスト |
企業分析での使い方:有報の「事業等のリスク」「セグメント・地域別売上」で中国/海外比率と補助金受益を確認。
8★財務シグネチャー&必須チェック指標
サブ領域別の財務シグネチャー(目安・方向性)
| サブ領域 | 営業利益率 | 資本集約 | ROIC傾向 |
| 製造装置 | 高い | 中 | 高い |
| 先端ファウンドリ | 高粗利 | 極めて高い | capex次第 |
| 高シェア部品 | 中〜高(例:村田≒16%) | 中〜高 | 中〜高 |
| 汎用部品・セット | 低い | 中 | 低い |
個社で必ず確認するKPI
| 指標 | 見るべき理由 / 確認先 |
| 稼働率・工場稼働 サイクル | 利益の最大ドライバー/決算説明資料 |
| book-to-bill・受注残 先行指標 | 需要の先行きを示す/決算開示 |
| 在庫・在庫日数 サイクル | 調整局面の入口/出口/B/S推移 |
| 設備投資・capex/売上 資本効率 | 資本集約度と将来の減価償却負担/CF |
| R&D比率 | 技術先行の維持力/P/L |
| エンドマーケット構成比 | 構造成長 vs 循環/セグメント情報 |
| 地域別売上(特に中国比率) | 地政学・規制感応度/セグメント情報 |
| シェア・歩留り | 競争優位の実体/IR・統合報告書 |
| ROIC(vs WACC) | 価値創造の有無。資本集約業界の本質指標 |
| フリーCF(capex控除後) | 高capexを賄った上で残る現金/CF |
企業分析での使い方:対象+同サブ領域ピアで横比較し、シグネチャーから外れる点を起点に深掘り。
9バリュエーションの型
循環株の罠:ピーク利益に低PERを掛けると「割安に見えて高値掴み」。正常化利益とサイクル局面の調整が必須。
| 項目 | 内容 |
| 主要倍率 | EV/EBITDA、P/E(正常化EPS)、装置・部品はROIC・FCFも重視 |
| 価値ドライバー | ROIC−WACCスプレッド、シェア持続性、エンド構造成長率、サイクル局面 |
| 留意 | 高capex事業はFCFと減価償却の整合を確認。EPSだけで判断しない |
企業分析での使い方:目標株価は「正常化利益 × サイクル調整した倍率」で組む。足元の好決算を延長しない。
直近のマクロニュース
ニュース欄は自動収集(Web検索)に基づき、網羅性・即時性は保証されません。
出典・参考
- ファウンドリシェア:TrendForce/Counterpoint Research(2025年)報道
- 製造装置(WFE)Big5シェア:Yole Group ほか業界調査(2024年)
- 資本集約度:各種業界分析(TSMC 2023年 capex intensity 約44%)
- 電子部品:Nikkei Asia/業界報道(村田 MLCC世界シェア3割超・営業利益率 2025年3月期 約16%)
- 東京証券取引所「業種別分類」/各社 有価証券報告書・決算説明資料・統合報告書
※ 数値は公表時点のもの。最新値は一次情報で確認。サブ領域により財務像は大きく異なる。数値の創作は行っていない。